振動シミュレーションのポイント – 3) 固定部の取り付け点剛性(局所剛性)

3) 固定部の取り付け点剛性(局所剛性)

フレーム構造の振動が実測値を再現しているにもかかわらず、そのフレーム構造が地面に固定された状態では実測値を再現しないことがあります。これは、フレーム構造の固定部が持つ局所的な剛性が再現できていない場合に生じます。ボルト穴近傍の構造は、ボルト固定されていないフリーな状態ではさほど振動特性に影響を及ぼしませんが、ボルト固定された時点で局所剛性が振動特性に関与するようになります。このため、固定部の局所剛性が再現できていないとボルト穴近傍の局所的な変形を伴う振動モードは再現されないことになります。例題構造のフレーム部材はビーム要素であるため、固定部の局所剛性は元来、再現できません。このため、固定部を単純に地面に固定すると本来の構造が持つ剛性をはるかに超える剛性で固定されたこととなり、Figure 3.1の「取り付け点剛性定義無し」のように共振点が全体的に高周波側へ移動していきます。(Figure 3.1)

Figure 3.1. シミュレーション結果 / 構造全系の伝達関数(周波数応答)

部材をシェル(板)要素やソリッド要素でモデル化した場合は、ボルト穴近傍の局所剛性も表現できるようになりますが、ビーム要素の場合はバネ要素を用いて表現します。(FIgure 3.2)

Figure 3.2. 固定部のモデル化

振動シミュレーションのポイント – 2) 重量物のイナーシャ(慣性モーメント)

2) 重量物のイナーシャ(慣性モーメント)

モータやエンジンその他電源装置のような重量物が搭載される構造物では、それらを単に質点としてモデル化しただけでは伝達関数(周波数応答波形)が実測値を再現しないことがあります。これは全系振動に対し重量物のイナーシャの影響が大きい場合に生じます。全体構造における質量比率が比較的大きいコンポーネントについては、イナーシャ(慣性モーメント)を集中マスに追加定義することで、全系振動が精度よく再現されるようになります。

Figure 2.1. 重量物のモデル化 / 集中マス(質点)

例題構造の集中マスにイナーシャを定義した場合(イナーシャ定義有り)と定義しない場合(イナーシャ定義無し)の場合の伝達関数をFigure 2.2に示します。「イナーシャ定義有り」に現れている低周波側のピークが「イナーシャ定義無し」では現れていません。イナーシャは共振周波数の変化だけでなく、固有モードのh振動形態を変化させることがあります。イナーシャは簡易な形状であれば手計算でも算出できますが、多くの場合、CADデータから算出します。

Figure 2.2. シミュレーション結果 / 構造全系の伝達関数(周波数応答)

イナーシャは、その値が大きいほど振動しにくく、いったん振動が始まると今度は振動が止まりにくいという特徴があります。たとえば、割りばしの真ん中を糸で釣ったものと、丸太の真ん中をロープで釣ったものを比べます。イナーシャの小さな割りばしは指を触れるだけで回転しますが、イナーシャの大きい丸太は手で押してやらないと回転しません。またその逆に、いったん回転をはじめた丸太を止めるには大きな力を要します。例題構造の集中マスにイナーシャを定義した場合(イナーシャ定義有り)と定義しない場合(イナーシャ定義無し)の時刻歴波形にはその特徴がよく表れています。(Figure 2.3)「イナーシャ定義有り」ではいつまでも振動がゼロに収束しないのに対し、「イナーシャ定義無し」では短時間でゼロレベルまで減衰しています。

Figure 2.3. シミュレーション結果 / 構造全系の時刻歴波形(過渡応答)

振動シミュレーションのポイント – 1) フレーム(部材)の振動特性

振動設計で解析シミュレーションを活用するにはシミュレーション精度が重要となりますが、その精度は主として以下3つの要素が実機特性を再現することで向上していきます 。

1) フレーム(部材)の振動特性

2) 重量物のイナーシャ(慣性モーメント)

3) 固定部の取り付け点剛性(局所剛性)

上記3つの要素について、Figure 1.1のようなフレーム構造を例にご紹介します。

Figure 1.1. 例題構造

1) 部材の振動特性

構造全系の振動特性が実機を再現するには、第一にフレームが部材単位で実機の共振周波数(= 固有振動数 = 固有値)および固有モードを再現している必要があります。実機構造をもとにメッシングする際、細部まで再現するとモデル規模が大きくなって計算時間が増大してしまうため、フィレットやアールなど細部形状を省略することがあります。すると、断面特性が変化して実機の振動特性を再現しなくなっていきます。たとえばFigure 1.2のような単純な直方体のコンクリートブロックは、直方体としてモデル化しただけでは、Figure 1.3のように伝達関数(周波数応答波形)が実測値を再現しません。これは角(カド)のアールが再現されていないことによるものです。 したがって、まずは構造を構成する部材が実測値を再現するようにモデルの誤差を最小化します。具体的には部材単体のハンマリング試験を行って実機の共振周波数および固有モードを計測し、計測されたデータとモデルの計算結果を比較して、必要に応じてモデルを修正してシミュレーション精度を向上させます。このような作業をモデルコリレーションといいます。また、部材の結合剛性が正確にモデル化されていない場合は、部材単体が問題なくとも構造全体の振動特性が再現しないため、部材が結合された状態でもハンマリング試験を行って結合剛性に着目したコリレーションを行います。

Figure 1.2. コンクリートブロックのハンマリング試験の様子
Figure 1.3. コンクリートブロックの伝達関数比較 / 実測(Test) vs. 解析(Sim.)