振動シミュレーションのポイント – 1) フレーム(部材)の振動特性

振動設計で解析シミュレーションを活用するにはシミュレーション精度が重要となりますが、その精度は主として以下3つの要素が実機特性を再現することで向上していきます 。

1) フレーム(部材)の振動特性

2) 重量物のイナーシャ(慣性モーメント)

3) 固定部の取り付け点剛性(局所剛性)

上記3つの要素について、Figure 1.1のようなフレーム構造を例にご紹介します。

Figure 1.1. 例題構造

1) 部材の振動特性

構造全系の振動特性が実機を再現するには、第一にフレームが部材単位で実機の共振周波数(= 固有振動数 = 固有値)および固有モードを再現している必要があります。実機構造をもとにメッシングする際、細部まで再現するとモデル規模が大きくなって計算時間が増大してしまうため、フィレットやアールなど細部形状を省略することがあります。すると、断面特性が変化して実機の振動特性を再現しなくなっていきます。たとえばFigure 1.2のような単純な直方体のコンクリートブロックは、直方体としてモデル化しただけでは、Figure 1.3のように伝達関数(周波数応答波形)が実測値を再現しません。これは角(カド)のアールが再現されていないことによるものです。 したがって、まずは構造を構成する部材が実測値を再現するようにモデルの誤差を最小化します。具体的には部材単体のハンマリング試験を行って実機の共振周波数および固有モードを計測し、計測されたデータとモデルの計算結果を比較して、必要に応じてモデルを修正してシミュレーション精度を向上させます。このような作業をモデルコリレーションといいます。また、部材の結合剛性が正確にモデル化されていない場合は、部材単体が問題なくとも構造全体の振動特性が再現しないため、部材が結合された状態でもハンマリング試験を行って結合剛性に着目したコリレーションを行います。

Figure 1.2. コンクリートブロックのハンマリング試験の様子
Figure 1.3. コンクリートブロックの伝達関数比較 / 実測(Test) vs. 解析(Sim.)

早稲田大学エクステンションセンター 2025年度 夏期講座のご案内

いつもご覧くださり、ありがとうございます。昨年に引き続き、早稲田大学エクステンションセンター様の夏期講座のひとつとして、「零戦の振動」に関するお話をさせていただくこととなりましたので、僭越ながらご紹介させていただきます。

当センター様は、1981年の発足から40年以上にわたり公開講座を広く一般に提供なさってこられた由緒ある教育機関で、そのような貴重な学びの場において夏期講座に携わらせていただけることになり、とてもありがたく思っております。

講座は7月2日から8月6日までの週1回、全6回で構成されています。開催場所は早稲田大学様の早稲田キャンパス(東京都新宿区)になります。

零戦の開発を通して成し遂げられた日本の技術革新について、少しでも多くの方々にお伝えできるよう、さまざまな工夫を織り込んでご紹介させていただく所存です。2025年度は「紫電改(シデンカイ)」に搭載された「誉(ホマレ)」エンジンにも触れ、当時の技術に関する見識をより深めていただけるよう構成しました。もしご関心がおありでしたら、お手数ではございますが早稲田大学エクステンションセンター様の開催概要ページをご覧いただけましたら幸いです。

#1 / 2025年7月2日(水)10:40~12:10 / 零戦の機体振動

#2 / 2025年7月9日(水)10:40~12:10 / 振動の基本事項

#3 / 2025年7月16日(水)10:40~12:10 / 技術革新

#4 / 2025年7月23日(水)10:40~12:10 / 零戦と雷電のエンジン・プロペラ振動

#5 / 2025年7月30日(水)10:40~12:10 / エンジン振動の基本事項

#6 / 2025年8月6日(水)10:40~12:10 / 雷電のエンジン・プロペラ振動と歴史への影響

講師ご挨拶

参考画像 / 零戦21型 / ハーフスケルトンモデル / ディアゴスティーニ社製

零戦の振動 – 機体振動のメカニズム

先日の土曜日(5月31日)に東京で標記内容に関するお話をさせていただきました。今回は、国家資格を取得され、各方面でご活躍なさっているプロフェッショナルエンジニアの団体で講演させていただいたのですが、そこはやはり第一線の方々、日ごろお持ちになっている技術課題と照らし合わせた真剣なご意見・ご質問をいただき、私自身たいへん勉強になりました。中でも自らの勉強不足を痛感しましたのが「構造物の熱処理」です。帰路、ご質問を思い出しながらふと思ったのですが、技術というのはまだまだ可能性があるということ、そして、その可能性をひきだしてくれるテクニカルディスカッションの意義をしみじみ感じた一日でもありました。ご聴講いただきました皆様、その節は本当にありがとうございました。

画像:零戦21型 / ハーフスケルトンモデル / ディアゴスティーニ社製」

固有モード計測(ハンマリング試験)における加速度センサー質量の影響(共振周波数の変化)

ハンマリング試験により固有モードを抽出する場合、はじめの一歩となるのが伝達関数の計測です。この伝達関数のピーク周波数から固有モードを抽出しますが、明瞭なモードシェイプが現れないことがあります。これはピーク周波数が計測する点(応答点)によって変化していることで生じます。応答点によってピーク周波数が異なるというのは、計測対象となる供試体の非線形性の他、加振力が大きすぎる場合や質量の大きい加速度センサー(ピックアップ)が取り付けられている場合にも生じます。加速度センサーにはさまざまなサイズのものがあり、基本的には、できる限り軽量のものが望ましいのですが、3軸センサーの質量は最小でも1グラムなため、1グラムによって周波数が変動する場合は、それよりさらに小さな質量0.2グラムのものを使用します。ただし、0.2グラムは1軸のため、全応答点の計測に時間を要します。固有モード抽出の際、ご参考にしていただけましたら幸いです。